PCI:循環器内科医によるカテーテル治療
CABG:外科手術による冠動脈バイパス術
オンキャブ:人工心肺という機械を使って心臓と肺の機能を一時的に補助しながらのCABG。通常、心臓の拍動は停止している。日本ではオンポンプアレストと心停止を強調する言い方をする。
オプキャブ:人工心肺を使わない麻酔科医によるコントロール。心臓は常に拍動している。
オンポンプビーティング:人工心肺装置は使うが心臓は拍動したままにする。心停止させない為、心臓に負担をかけないと一般的には考えられている。
狭心症の治療においてPCIとCABGのどちらが優れているかという議論は、かつて循環器内科と心臓外科がそれぞれ有利なエビデンスを示し合う形で繰り返されてきました。そのため、私たち麻酔科医も長年、その議論に振り回されてきた感があります。
しかし本当に大切なのは、「患者さんとご家族が、どの時期に、どのような結果を期待しているのか」という視点です。
一時的に危機を乗り越えることと、長期的に健康を維持することは必ずしも一致しません。そのため、医療チーム全体で患者さんの希望を共有し、最適な治療方針を選択することが重要です。
治療後の経過時間によって結果は変わる
短期的には死亡率はPCI<オプキャブ<オンキャブの順番で低い
術後30日時点ではオンキャブの死亡率を1としてPCIは0.5、オプキャブは0.8です。
長期的には死亡率はオンキャブ<オプキャブ<PCIの順番で低い
時間の経過とともにPCIとオンキャブの結果が逆転
それが、術後1年後ではPCIの死亡率を1とするとオンキャブの死亡率は0.90と逆転して行きます。
オプキャブとの比較においても、0.95となります。
詳しく分析すると
2021年のネットワークメタの結果ですが、


この論文には脳梗塞の発生率も調べられていて、ぜひ表だけでも見ていただくことをお勧めします。
短期では当然、PCIが発生率は一番低くくオンキャブが一番高いですが、長期的には差が少なくなってきます。
さらに長期的、10年後のオンキャブとオプキャブの比較
2022年 JAMA surgery
10年間の死亡率は
オプキャブ 34% vs. オンキャブ 31.1%
生存期間の中央値 4.6 年 vs. 5.0年
となりオンキャブの生存率が高い結果です。
オンポンプビーティング
オンポンプビーティングはアジア圏でポピュラーな方法です。
オンキャブとオプキャブの良いとこ取りという考えですが、欧米では支持されていません。
オプキャブの持つ脳梗塞の少なさとオンキャブの持つ血圧の安定度がそのメリットですが、
麻酔科医の心臓への理解度が少ないと悪いとこ取りになります。
ここが意外な盲点ですが、心臓は拍動しますから酸素は消費している中で、血圧を下げてしまうと心筋虚血が一気に進行してしまうのです。
麻酔科医は拡張期血圧を下げないように昇圧剤を使用するか、人工心肺の技師さんにポンプ流量を減らし自己の拍動を出してもらう必要があります。当然、人工心肺には充分な血液量が必要になりますから、輸血も必要となることが多く、オンポンプビーティングは思っているほどに低侵襲でないことが理解できると思います。
ガイドライン的には

日本循環器学会の治療のガイドラインでは上記になっていますが、このまま治療方針を決めるわけではなく、患者さんとご家族が、どの時期に、どのような結果を期待しているのかで最終的に治療方針は決まって行きます。
SYBTAXスコアは患者さんのリスクを判定する指標です。
例えば糖尿病があるとPCIはすぐに閉塞することがわかっており、外科的なCABGが勧められます。
このように、患者さんのリスクによって死亡率が大きく変わってきますので、
その内容も麻酔科医は深く理解する必要があります。
まとめ
「患者さんとご家族が、どの時期に、どのような結果を期待しているのか」
という視点を常に持つことが大切なことを先程、述べましたが、
このような状況は臨床の場では頻繁に起こります。
常に最新のエビデンスをアップデートしていることが医師としての正しい姿勢だと思います。
一例を挙げるなら輸血です。短期的には患者さんを救うことにはなりますが、長期的には死亡率を上げてしまいます。
常に「患者さんとご家族が、どの時期に、どのような結果を期待しているのか」を意識して臨床に臨んでいただきたいと思います。
