心臓外科麻酔において、かつては「どの昇圧剤を使うのか?」と、麻酔科医個人の経験や好みに基づいて選択がなされることがよくありました。

しかし現在では、個人的な経験則に依存する時代はすでに終わりを告げ、科学的な根拠に基づくデータ駆動型(Data-driven)の意思決定が主流となっています。

今やデータサイエンティストが企業の経営方針に助言を与えることが一般的になりました。アマゾン、グーグル、メタ、ネットフリックスなどの巨大テック企業が成長を続け、メジャーリーグのヒューストン・アストロズが毎年のようにプレーオフに進出している背景にも、このデータ活用があります。

医療もまた例外ではありません。医学生や若手医師の皆さんには、ぜひ一度、データサイエンスを学ぶ機会を持つことをお勧めします。私自身も講座を受講した経験がありますが、その衝撃はまさに「目から鱗が落ちる」ほどのものでした。

昇圧薬の種類による死亡率の推移

2021年に発表された論文では、昇圧薬の種類によって、ICU滞在中および術後30日間の死亡率に差があるかが検討されました。この研究の特徴は、術後早期のアウトカム(ICU滞在中)と中期的アウトカム(術後30日)の両時点を比較評価した点です。

本研究は、心臓外科麻酔や集中治療領域における薬剤選択を、従来の経験則から科学的エビデンスに基づく意思決定へと促す重要なデータを提供しています。

ドーパミン

  • 5γ以上で顕著にICU死亡率が高い。腎不全を誘発する。

エピネフリン(ボスミン)

  • 術後早期(ICU)ではドブタミンよりも死亡率を下げる傾向が見られる。
  • しかし、0.1γ以上の濃度では中期的には死亡率は高くなる傾向

ミルリノン

  • 中期的に死亡率の改善が最も優れている。

麻酔科医のカテコラミン投与の戦略

  • ドブタミン、もしくはボスミンでまずは開始する。
  • しかし、心臓の収縮が充分でなく、投与量が多くなる場合や中期的に投与が続くと予想された場合にはミルリーラを併用する。
  • 昇圧薬が高濃度投与が必要な場合は機械的サポート(IABP,ECMO,IMPELLA)の早期導入を検討する。
  • ドーパミンは手術室の薬剤リストから外す。

ドブタミンを高濃度投与の場合はミルリノンが有効

2008年 Anesthesiology

LowEF群で、DOBを投与した場合、死亡率が上がり、

OR(オッズ)で、2.1

頻脈による酸素需要の増加、不整脈による、心拍出量の低下が原因と思われます。

ドブタミンの濃度は

4.8から6.0γで平均31時間の投与でした。

ミルリノンの特徴

  • 術前、術中に不整脈や頻脈が起こりやすい患者さんの人工心肺からの離脱に適している。
  • 末梢血管抵抗が下がりやすいので、少量から始めノルアドレナリンと併用する。

全米での心臓麻酔での強心薬の使用状況

Screenshot

2023年 Anesthesiology

全米のメジャーな心臓麻酔をやっている病院の

昇圧剤のバリエーションをカラーで可視化したものです。

ボスミンとミルリーラ、ノルアドが多いと思います。

次にDOBですね。

データ社会ですから、データどおりの麻酔です。

まとめ

心臓麻酔における昇圧薬の選択について、科学的エビデンスに基づくデータ駆動型(Data-driven)戦略の重要性について解説しました。

今後、麻酔科医療はデータサイエンスとの融合がますます進み、より高度で精密な医療の提供が求められる時代になるでしょう。