結論から言いますと、どちらも同じような予後になります。
この話題は長年にわたり、朝の麻酔科カンファレンスで繰り返し議論されてきましたが、近年相次いで発表された大規模なRCTにより、ようやく一定の方向性が示される形となりました。
REGAIN trial 2021年 アメリカ
1600人をRA(脊髄クモ膜下麻酔)群とGA(全身麻酔)群に無作為ブラインドで1;1に分け
primary outcome
60日後 3m歩く事が出来なかった患者数をカウント(ここには死亡も含む)
RA中のsedation(鎮静)の指示はなし。(アメリカでは脊髄クモ膜下麻酔には鎮静が標準的に行われています。)
全身麻酔に神経ブロックを追加するかの指示はなし。
(アメリカのスタディのほうが、プロトコールがざっくりとしてます。)
結果
1)60日後、3m歩けなかった人 (死亡率も含め)
RA 18.5% vs GA 18.0%
有意差なし
2)術後せん妄
RA 20.5% vs GA 19.7%
有意差なし
RAGA-delirium trial 2021年 中国
そもそも彼らのclinical questions(日々の臨床での疑問点)はRA(脊髄クモ膜下麻酔)の術中にsedationなしであれば、POD(術後せん妄)はRAの方が少ないのでは?
というものでした。
1000人 65歳以上を無作為にブラインドで1:1に分け、
術後のPODを評価しました。
同時にVASによる痛み、30日生存率、呼吸器合併症なども調査しました。
麻酔方法のプロトコールを見て驚いたのは、中国の”今ふう”の麻酔です。
全身麻酔
TIVA or 吸入(セボ、イソ)
挿管orLMA、
ロクロニウム、麻薬(sufentanyl,fentanyl) + 神経ブロック(3-in-1)
ただ、BISモニターと筋弛緩モニターがプロトコールに入っていないことは残念です。
この2種類のモニターは高齢者の起こしがちなBurst-suppression ,
短時間の手術ゆえの残存筋弛緩の危険に対処することが出来ます。
脊髄クモ膜下麻酔
ルンバール±エピドラ
sedationなし。周術期のベンゾジアゼピンの投与禁止。
結果
1)POD
RA 6.2% GA 5.1%
(なんとRAの方がdeliriumの発生が多く、RR1.2)
2)delirium rating score
23 vs 24
(せん妄の程度を表すスコアで結果は同じ)
3)delirium subtype
hyperactive type RA 55.2% vs GA 66.7%
hypoactive type. RA 37.9% vs GA 20.8%
(hypoactive typeがRAでは多い)
4)痛みのpain score(VAS)は同じ
5)30days mortality 30日死亡率
RA 1.7%vs GA 0.9%
(RAの方が死亡率は高い)
6)adverse events
PONV が一番多く
47% vs 34%
(意外にもRAの方が多い)
低血圧
RA12.3% vs GA9.8%
(この差が決め手になったのかも!)
呼吸器合併症
hypoxemia
10.4% vs 12.8%
(定義:SaO2<88% 5分以上継続)
新たな肺炎
RA 0件 vs GA1件
(中国では肺炎自体、数が少ないのか?
おそらく、定義が違うのだと思います。)
まとめ
高齢者の大腿骨頸部骨折においては、麻酔方法による死亡率や術後せん妄の発生率に有意な差は認められていません。術後せん妄については、麻酔の種類よりも絶食期間などの周術期管理の方が影響が大きい可能性が示唆されています。また、受傷から早期に手術を行うことで死亡率の改善につながるというエビデンスも示されています。
