今回は心臓麻酔における腎保護について説明いたします。心臓麻酔の人工心肺装置でのAKI
の発生率は50%を超えるとの報告があり、この問題に挑む価値は大きいと思います。
人工心肺中の血圧は70mmHgから80mmHgが最適
人工心肺中の臓器血流の自動調節能の範囲は意外に狭い
これまで、ヒトの臓器血流は平均動脈圧が50〜150mmHgの範囲であれば自己調節によって一定に保たれると考えられてきました。
しかし、人工心肺下では拍動性が失われ、血流が定常流になるため、この自動調節能は十分に発揮されにくくなります。実際、人間の循環系は血圧の変動に対してそれほど強くはないことが明らかになりつつあります。

Optimal Blood Pressure During Cardiopulmonary Bypass Defined By Cerebral Autoregulation Monitoring
J Thorac Cardiovasc Surg. 2017 Jul 24;154(5):1590–1598.e2.
近年の報告では、人工心肺中の自己調節能の有効範囲は上限が84±11 mmHg、下限が65±12 mmHgとされており、従来考えられていたよりもはるかに狭いことが示唆されています。
さらにこの知見を裏付ける研究として、平均動脈圧が80mmHgを超える、あるいは60mmHgを下回ると、脳梗塞の発生率が有意に増加することが報告されています。
2019 EACTS/EACTA/EBCP guidelines on cardiopulmonary bypass in adult cardiac surgery
さらに狭い血圧の範囲で脳機能への影響を調べる調査では70mmHg以上は70mmHg以下よりも神経認知機能回復の遅延が少ないという結果が示されました。
Targeted temperature management in cardiac surgery: a systematic review and meta-analysis on postoperative cognitive outcomes 2022 BJA
結論は人工心肺中の血圧(環流圧)は70-80mmHgが理想的です。
できるだけ一時的でも低血圧は避ける

人工心肺中は3峰性に低血圧が起こります。初めの1峰目はサイトカインスートムと言い、血液が人工心肺装置の人工物に触れることで炎症物質が放出されるとされています。2峰目は心筋保護液による希釈。
最後の大動脈遮断解除後にはアンギオテンシン変換酵素の欠乏で血管が収縮できなくなることが主な原因です。アンギオテンシン変換酵素は肺の血管内皮細胞から放出されますので、できるだけ早く肺血流を復活させれば血管抵抗は正常化します。
とはいえ、自然に任せていると人工心肺からの離脱時間がすぐに来てしまいますので、血圧が低いまま人工心肺からの離脱の時を迎えてしまいます。これは非常に危険なことだと思います。
離脱の前にノルアドレナリンなどで血管抵抗を修正しておく必要があります。
血圧コントロールにメリハリをつける。
止血との兼ね合いで低血圧をあえて許容する場合もありますが、止血作業が終われば速やかに血圧を最適な範囲に戻すようにしましょう。
輸液戦略 CVPを10mmHgを超えないようにする

前回、CVPが上昇するとAKIが増えますとご説明しましたが、心臓麻酔では適切な輸液量の投与、少ない輸液量でもCVPが上がることは頻回にあります。輸液量以外の原因を分析しましょう。原因を修正することでCVPは下げる事ができます。
スワンガンツによる肺動脈圧とCVPの比(PAPi)で右心不全は診断できますし、https://dragonanesthesia.com/case-1/ (←スワンガンツの臨床での使い方)
肺動脈楔入圧を見ることで肺高血圧や左心不全が診断できます。もちろんエコーでも同様に診断できます。
原因と治療は以下。
- 右心不全 指標: CVP↑ PAPi↓ 対処:ドブタミン、ミルリーラ
- 肺動脈血管抵抗上昇による肺高血圧 指標: 肺動脈楔入圧と肺動脈拡張期圧の値の乖離 対処:NO吸入
- 左心不全 指標:肺動脈楔入圧↑ 対処:ドブタミン、ミルリーラ
CVカテーテルを挿入してない症例の場合は、フロートラックのSVVで代用できる。
SVV(Stroke Volume Variation:1回拍出量変動)は、人工呼吸中の呼吸サイクルに伴って変動する1回拍出量の変化率を示す指標です。循環血液量の充足度(とくに前負荷)を評価するために用いられ、輸液反応性の予測に有用です。
SVVを5以下にすると血管内皮細胞のグリコカリックスが血管進展により破損する報告があり、
CVPを上昇させ腎鬱血の指標となり得ます。
SVVは7~ 10に目標値を置いて輸液管理をすることをお薦めします。
Effect of different levels of stroke volume variation on the endothelial glycocalyx of patients undergoing colorectal surgery: A randomized clinical trial 2021
輸液の種類ではAKIの発生率は変わらないが、アミノ製剤はAKIを減らす可能性あり
HESやボルベンなどコロイドと言われている輸液剤は避けましょう。
アルブミン製剤ではAKIの発生率に有意差ないとされていますが、
アミノ製剤はAKIを減らす報告があります。

Anesthesiology 142(5):p 818-828, May 2025.
AKIの発生率を43%まで減らすことができたようです。(非投与群 50%)
投与方法は2g/kg/日 手術日から術後72時間持続投与。
グリシンとアルギニンが輸入細動脈を拡張させ腎血流を増加させるようです。
まとめ
心臓麻酔でも一般麻酔でも腎保護についての戦略は同じです。
MAP , CO, CVPをモニターし適切な腎血流と環流圧を保ち、腎鬱血は避けるようにしましょう。
