最近、糖尿病の治療薬なのに「体重が減る薬」として話題になる薬が増えています。
実際に、術前問診で「糖尿病はないけど、ダイエット目的で注射しています」という患者さんに出会うことも珍しくありません。

ここで麻酔科的に大事なのは、血糖値よりも“胃の中に何が残っているか”です。
中には、胃の動きを遅くして、絶食していてもフルストマックのような状態になる可能性がある薬があります。
この記事では、GLP-1受容体作動薬やマンジャロ、メトホルミン、SGLT2阻害薬などを、「まず何の薬か」「何に注意するのか」という視点で、できるだけわかりやすく整理していきます。

マンジャロ、オゼンピック、メトホルミン…最近の糖尿病薬を麻酔科目線でやさしく整理してみる

「マンジャロって結局どういう薬?」
「痩せ薬って聞くけど、麻酔では何が問題なの?」
そんな疑問を持つ学生さんや研修医の先生は多いと思います。

最近の糖尿病薬は、単に血糖値を下げるだけではなく、体重減少、心血管保護、腎保護など、かなり幅広いメリットを持つようになってきました。
その一方で、麻酔科医にとっては胃排出遅延、嘔気・嘔吐、誤嚥リスク、乳酸アシドーシス、正常血糖値ケトアシドーシスなど、見逃せないポイントもあります。
まずは全体像をシンプルにつかめるように、商品名も含めてざっくり整理していきます。

最近の糖尿病薬・痩せ薬まとめ(超シンプル版)

分類代表薬(日本の商品名)何をする薬?よくある副作用麻酔での注意ポイント
GLP-1受容体作動薬オゼンピック、リベルサス、ウゴービ、ビクトーザ、トルリシティ食欲↓、胃の動き↓、血糖↓吐き気、嘔吐、便秘胃排出遅延 → フルストマックの可能性
GIP/GLP-1作動薬マンジャロGLP-1より強力に体重↓+血糖↓吐き気、嘔吐同様に誤嚥リスク(むしろ強め)
ビグアナイドメトグルコ、グリコラン(メトホルミン)肝臓で糖を作るのを抑える下痢、腹痛脱水+腎障害で乳酸アシドーシス(72時間前に休薬)
SGLT2阻害薬フォシーガ、ジャディアンス、カナグル尿に糖を捨てる脱水、尿路感染正常血糖DKA

絶食しても安全ではない?実際の報告例

GLP-1系薬剤やマンジャロの問題は「理論」ではなく、すでに臨床で起きています。報告では、10時間以上絶食していたにも関わらず胃内に固形物が残存していたケースや、麻酔導入時に大量の胃内容物を嘔吐した例が確認されています。さらに、気道内に食物残渣が認められた症例もあり、誤嚥リスクの現実性が示されています。つまり、従来の絶食ルールだけでは安全を保証できない可能性があるということです。

GLP-1は投与量が多いほど胃の中の消化してない食べ物を残存させてしまう。

Meier J.J. et al.J. Clin. Endocrinol. 88, 2716–2725 (2003)

じゃあどう管理する?(休薬・胃エコー・挿管)

では実際に、GLP-1受容体作動薬やマンジャロを使用している患者をどのように管理するべきでしょうか。まず重要なのは、術前に必ず内服・注射歴を確認することです。特に「痩せる注射をしている」といった表現で申告されることも多く、見逃さないことが大切です。一般的には、週1回製剤は1週間前から休薬、毎日製剤は手術当日に中止が推奨されています。ただし、薬の半減期は長く、休薬しても完全に影響が消えるとは限りません。

そのため、当日の評価が非常に重要になります。悪心、嘔吐、腹満感などの症状がある場合は、手術延期も含めて慎重に判断します。症状がなくても安心はできず、必要に応じて胃エコーで胃内容物を評価することが有用です。胃内に固形物や多量の液体が認められた場合、あるいは評価が困難な場合は、フルストマックとして扱うのが安全です。

具体的な麻酔戦略としては、LMAよりも気管挿管を選択し、迅速導入(RSI)を検討するのが基本になります。従来の絶食ルールだけに頼るのではなく、「この患者は本当に空腹か?」を常に疑う姿勢が重要です。
覚えておくべきポイントは一つです。


「GLP-1系=見えないフルストマック」
この認識が、安全な麻酔管理につながります。